5月19日、突然の寒波、前日より10度低い。
それに強風。
その日は大須若宮通り名古屋高速高架下のケイコ。

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昼頃からかなりの強風なので、
「今夜のケイコ大変だな、収まってくれるといいな。」の期待も虚しく、
ますます強くそして冷える。
真冬に逆戻り。
しかも今日は橋の下世界音楽祭、矢作川の川べりの竹藪、草の上での芝居「藪の中」のケイコ。
で、屋外で初めての音(琵琶の生演奏)、生声、衣装もかなり大きいかぶり物をかぶる。
なるべく温かい格好で始める。
私は演出なので動き回ったり足踏みしたり少しは寒さを忍ぶ事ができるが、
役者はそうはいかぬ。
しかもこの芝居、7名全員、最初から最後まで半幅くらいの段ボール箱の敷物にじっと座りっぱなし。
セリフは各人1回限り、短い人で3分、長い人で11分。
全部で40分。

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風はますます強く、体も表面だけでなく、芯まで冷える。
音キッカケの合わせ、芝居の運びの調整、そして「止めずの通し」。
2時間ばかり…。
本番近くなって「風邪など引いてくれるなよ」と私の心配をよそに、
皆風に吹き飛ばされぬよう、かぶり物をしっかり押さえ、
声も飛ばされぬよう腹から出し、
そして何より寒さで心まで冷え込まぬよう、
いつもより心熱くテンポ良い入魂の演技、
私もちょっと感動して、ガラ系携帯で写真をパチパチした。

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普段何気ない高速道路の天井も、
夜の濃紺の空ときらめく町の灯りと交わるとキレイだ。
高架を支える柱はまるで鉄の巨大な彫刻。
一丁の鍬を作るのにどれほどの「人の知恵」と「森の木」が使われたのか。
やがてその鍬で米が栽培され、多くの私達が生きているか…。
一体この鉄柱一本でどれほどの鍬ができるか、
この鉄柱一本にどれほどの木炭がいるか。
ナニと引き換えにこの鉄柱を造ったのか。
…思いが迷路にはまったようだ。

寒気に触発された役者達の熱演「藪の中」は終わった。

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ウレシクて思わず拍手パチパチパチ。
と、すぐ後ろでもパチパチパチ。
振り返ると、男の人が笑顔で拍手している。
芝居の最初頃、横を通り過ぎてようとした人だ。
横見だけでなく、後でぞっと見ていてくれたんだ。
アリガタイ…

笑顔で、「なんかわからんけど面白かったで、これ江戸より前の話やろ、それはわかった。」

寒い中、たった一人のお客。
役者にも声をかけている。
勤め帰りの人だろうと思っていると、
「原さんあの人ダレ?」と役者の一人。
「ん、知らないよ、通りかかりのひと。」
「え、てっきり原さんが知り合いの人呼んだのかと思った。」
「知らん知らん、ただの通りがかりの人。」

この場所ではよくケイコをするけど、あれほど熱心な人は初めてだ。
寒い中、「アリガトウゴザイマシタ。」

寒かった分いいケイコが出来ました。
よく考えると、あの高架を支える鉄柱は、良いケイコ場を支えてくれているのかもしれぬ。
6月2日、もうすぐだ。
橋の下ではどんなお客と、天気に出会えるんだろう。
あと2週間、ラストスパートだ。